Story
『遊び』と秘密
楽しい『遊び』には「秘密」がつきものです。
「秘密」にはドキドキとワクワクがいっぱい詰まっています。
日常生活から切り離した、隠れ家のような異空間の楽しみ。
誰もが知るわけではない自分たちだけのための新しい世界を、まるでユートピアやドールハウスを作るかのように思いのまま創造する楽しみ。
そしてそれをお気に入りの仲間とだけ分かち合い共有する、連帯感の心地よさ。
例えば、国民に大きな犠牲を強いながら、自らの『遊び』のために莫大な浪費をしたということで悪名高い、マリー・アントワネットがプチ・トリアノン宮殿に作ったサロン。
ここではその女主人であるところのマリー・アントワネットが取り決めたルールは絶対に守らなければならず(例え国王であっても!)、決められた制服、決められた言葉遣いがあり、そしてプチ・トリアノンを訪れてそれを共有することができる人々は、彼女の取り決めた一握りの人々のみでした。
庭園を含むこの宮殿内には現実を模した作り物の世界が再現されており、マリー・アントワネットとその取り巻きたちは、堅苦しい別のルールにがんじがらめにされる現実の宮廷世界を抜け出して、この閉じられた秘密の空間の中で楽しい時を過ごしたといいます。
それから例えば、同じ時代で言うならば、出席者が全て仮面を纏い、別人格に「なる」ことがよしとされる仮面舞踏会もまた、いかにもわかりやすく「秘密」を利用した楽しみと言えるでしょう。
それどころか、一見したところでは遊んでいるようには見えない革命家や異端者、秘密結社などの集まりが、なぜあんなに熱狂するかという原因の一つにも、「秘密」があるとも思えます。
彼らはいかにも重大事に関わっているようでいて、それでも時折、仲間と秘密を共有する際に、どこか遊んでいるかのような興奮を見せることがあります。
例えばフランス革命では、革命家たちは同じ思想を分け合う者たちにこそ共感のできる共通の言語を作り、また後には「革命後の世界」を表現するための新たな言葉や立ち居振舞い、風俗を作り、その世界のルールに沿ったカレンダーまで作りました。
これらからは、当時の革命家たちがどれだけ自分達のしていることに対して熱狂していたかが伝わってきます。
彼らは同じ「秘密」(秘密は成長すると「世界観」になっていく)を共有することによって、相手を仲間と認めたり、連帯感を強めていったのです。
このように「秘密」とは時に人々を熱狂させるような魅惑的なものである上に、そもそも『遊び』の空間は日常生活から隔離され、独自の法則によって成り立つ自立した場であることが多いので、その閉鎖的な性質ゆえに「秘密」というものとの関わりがとても深いのです。
そして時に、「その世界の独自のルールを知っている」ということが「秘密」そのものにもなり、それを知ることによって同じ秘密の世界を共有できる仲間として入団を認められることもあるのです。
こういった『遊び』と「秘密」(そしてまた「世界観」)の興味深い関係に、*Singspiel*は注目しています。